わしが見習いだったころの話じゃ。

はじめて舵(かじ)のそばに立った日、海図の記号が半分も読めんかった。聞けば叱られると思うて、分かった顔をしておった。

その夜、年かさの航海士がとなりに来て、こう言うた。「読めん記号は、どれじゃ」。

わしは観念して、指でさした。三つ、四つ、いや十はあったかのう。航海士は笑いもせず、ひとつずつ教えてくれた。

あとで知ったことじゃ。あの人が心配しておったのは、わしが分からんことではなかった。分からんまま、黙って舵をにぎることじゃった。

新しい仕事についたばかりのきみにも、書類の言葉が半分も分からん日があるじゃろう。それでよい。はじめから読める者はおらん。

「ここが分かりません」と指でさせたら、その日はもう十分に働いた日じゃ。

みなとくんぼくも今日、先輩に『分かりません』って言えました! 言う前は、すごくどきどきしたんですけど……
あんぼう船長あわてんでいい。ひとつずつ、じゃ。霧が晴れるまで、わしが何度でも照らすでな。