概要
取引審査の記録票は、「OKが出た」という結論ではなく、「何を確かめて、誰が決めたか」という道筋を残すための1枚です。
取引審査のあと、記録には何が残っているでしょうか。「問題なし」の一言と承認印だけ、ということはありませんか?
1年後に監査で「なぜこの取引を通したのですか」と聞かれたとき、その1枚で説明できるか。記録票の出来は、そこで決まります。
この記事では、安貿ナビが実務向けに整理した記録票の見本(8つの欄)を示します。あわせて、どこまで書けば十分か、誰が承認するか、何年残すかを、経済産業省の資料にもとづいて整理します。


- 取引審査の記録票に入れる8つの欄と、それぞれを残す理由
- 「どこまで書けば十分か」を判断する物差し
- 誰が承認し、何年保存するか(経済産業省の資料での根拠)
記録票は「判断の道筋」を残すもの

取引審査=「相手と使いみちを確かめて、その取引をしてよいかを会社として決める手続き」です。
経済産業省のガイダンス(入門編)は、取引審査を4つのステップで説明しています。
① 用途・需要者を確かめる
↓
② 取引をしてよいか、許可が要るかを検討する
↓
③ 取引審査票をつくり、責任者の決裁を受ける
↓
④ 完了(許可が要るなら、輸出の前に許可を取る)
需要者=「その貨物や技術を、最終的に使う相手」です。
記録票は、このうち③で使う書類です。ガイダンスは、文書を残す目的を「違反が見つかったときや監査のときに、輸出管理をきちんと行ったことを示すため」と書いています。
つまり記録票は、未来の誰かへの説明書です。読むのは、監査の担当者かもしれません。担当を引き継いだ後任かもしれません。そのとき書いた本人は、もう隣にいないかもしれないのです。
記録票の見本(8つの欄)

安貿ナビが整理した見本です。欄の名前は、自社の規程に合わせて変えてかまいません。
- ① 案件:管理番号・件名・記入日・担当者 → 出荷のとき、インボイスとこの記録を結びつけるためです
- ② 相手:契約先と需要者の名称・所在地(省略しない)、新規か継続か、需要者までの取引経路 → 貨物が本当にその相手に届き、その相手が使うかを確かめるためです
- ③ 用途:最終的な使いみちを具体的に。何を根拠に確かめたか(注文書・メール・相手の説明など) → 使いみちが、相手の事業内容と合っているかを見るためです
- ④ 貨物と判定の結果:品名・型番・数量・金額、該非判定の結果(項番)と該非判定書の番号 → 判定の中身は、品目ごとに該非判定書の側へ残します。取引ごとの記録票とは、番号で結びます
- ⑤ 懸念の確認:外国ユーザーリストとの照合結果(照合した版の日付)、経済産業省から通知(インフォーム)を受けていないか、気になる点はなかったか → 補完的輸出規制(旧キャッチオール規制)の確認を残すためです。リストに載らない品物なら、経済産業省の「客観要件確認シート」(参考様式)の結果を添付します
- ⑥ 許可の要否:要る/要らない、その理由(特例・包括許可・個別許可のどれか)、許可の番号 → 出荷の前に、許可証がそろっているかを確かめるためです
- ⑦ 結論と承認:承認する/条件付きで承認する/承認しない、条件、判断の理由、承認者と日付 → 会社として決めた証拠を残すためです
- ⑧ 保存:保存の期限、添付した資料の一覧 → 期限を書いておくと、いつまで残すかで迷いません
経済産業省も、ガイダンスの別添に「取引審査票」の参考様式を載せています。自社の様式をつくるときは、こちらもあわせて確かめてください。
どこまで書けば十分か

物差しは1つです。あとから別の人が読んで、同じ結論にたどり着けるか。
経済産業省の資料も、名称や所在地は省略せずに書く、用途は最終的な使いみちが分かるように具体的に書く、としています。監査の確認項目にも「記載内容は、事実に即し、正確に記入されているか」とあります。
書き方の例を並べます(どれも架空の例です)。
- 用途:「産業用」 → 「需要者の自社工場で、樹脂部品の寸法を測る検査装置に組み込む」
- 懸念の確認:「問題なし」 → 「外国ユーザーリスト(○年○月○日版)と照合し、該当なし」
- 判断の理由:「継続取引のため」 → 「前回と同じ型番・同じ需要者・同じ用途であることを、注文書で確認」
反対に、書きすぎる必要もありません。判定の中身は該非判定書へ、やりとりの全文はメールの添付へ。記録票には事実と根拠を1〜2行ずつ書き、どの資料を見ればよいかが分かれば十分です。
あなたの会社の記録を1枚取り出してみてください。後任の人が読んで、同じ結論を出せそうでしょうか?
誰が承認し、何年残すか

承認するのは「最終判断権者」
ガイダンスは、取引審査の責任者を次のように説明しています。
- 取引をするかどうかについて、最終的な責任を負う
- 公正に判断できるよう、営業部門から独立した立場が望ましい
- 取締役などの中から選ぶ
- 中小企業では、代表取締役が兼ねることも考えられる
CPの届出で求められる事項でも、取締役などが「最終判断権者」になるとされています。権限の一部は、社内規程の定めにしたがって、ほかの人に任せることもできます。
CP=「会社の輸出管理のやり方を文書にした、社内のルール」です。
ここで気をつけたいのが、記録票の承認欄です。経済産業省の立入検査では、規程と違う人が最終判断をしていた例が指摘されています。承認欄の名前が、規程で決めた人(または規程で任された人)と一致しているか。これも記録票で確かめられる大事な点です。
保存期間は、項番で分かれる
ガイダンスは、貨物を輸出した日(技術を提供した日)から、次の期間を示しています。
- 輸出令別表第1・外為令別表の1〜4の項(武器・大量破壊兵器関連):少なくとも7年
- 5〜16の項(通常兵器関連など):少なくとも5年
紙だけでなく、電子ファイルでの保存もできます。保管する部署と場所を決め、なくさず、すぐに見られるようにしておくことが大切です。
項番ごとに期限を分けるのが手間なら、社内では一律7年にそろえるという運用もひとつの工夫です。⑧の欄に期限を書いておけば、捨ててよい時期を迷いません。
まとめ
- 記録票は、結論ではなく「何を確かめて、誰が決めたか」を残す1枚
- 見本の8つの欄は、案件・相手・用途・貨物と判定・懸念の確認・許可の要否・結論と承認・保存
- 書く量の物差しは、別の人が読んで同じ結論にたどり着けるか
- 承認は、規程で決めた最終判断権者。承認欄の名前が規程と合っているかも見る
- 保存は、輸出の日から1〜4の項は少なくとも7年、5〜16の項は少なくとも5年
いま使っている記録票に、8つの欄のうち抜けているものはありませんか?


※ 取引審査の手順・取引審査の責任者・文書の保存期間は、経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」(第3.0版・令和8年3月)の本文と別添4(帳票)によります。最終判断権者・事実の正確な記載・保存期間は、経済産業省「輸出管理内部規程の届出等について」別紙1「外為法等遵守事項」(令和7年度 説明会資料 中級編 参考資料に収録)、立入検査の指摘例は同「説明会資料 実務(中級編パート2)」(令和7年度)によります。この記事の記録票の8つの欄と書き方の例は、安貿ナビが実務の工夫として整理した見本で、法令上の様式ではありません。個別の取引で許可が要るかどうかは、法令・通達の原文をご確認のうえ、必要に応じて経済産業省にご相談ください。
改正を見落とさないために(無料)
安全保障貿易の制度は、たびたび改正されます。安貿ナビでは、経済産業省・CISTEC・米国EARの新着を確認し、実務への影響をメールでお届けしています。
社内の輸出管理教育をご検討の企業のご担当者さまには、あわせて資料をお送りしています。
