概要

技術を渡す前に確かめることは、「何を」「誰に・どこで」「どうやって」の3つです。 この記事では、それを10項目・1枚のリストにまとめました。

図面をメールで送る。来日した取引先の技術者に、工場で使い方を説明する。海外の拠点と、共有フォルダで仕様書を見せ合う。

どれも、毎日のように起きていることです。そのたびに「これは輸出管理の話なのか」と迷ったことはありませんか?

貨物と違って、技術は目に見えません。税関も通りません。だからこそ、渡す前に立ち止まる場所を決めておくことが大事です。

みなとくん船長、図面を送るだけでも、輸出管理が関係するんですか? 荷物は何も送っていないのに……
あんぼう船長関係することがあるんじゃ。技術は、形のないまま国境を越えるでな。あわてんでいい。確かめる順番を1枚にしておけば、迷わずにすむぞ
## この記事で学べること
  • 技術を渡す前に確かめる10項目(1枚のリスト)
  • 各項目が、どの法令・通達にもとづいているか
  • 「国内で、日本にいる人に渡す」でも対象になりうる理由

技術を渡す前の確認リスト

技術を渡す前の確認リスト
技術を渡す前の確認リスト

先にリストの全体をお見せします。上から順に確かめます。

【何を渡すか】
□1 渡すものは「技術」か(図面・仕様書・プログラム・口頭の説明も含む)
□2 リスト規制に当たるか(該非判定は済んでいるか・最新の法令で見たか)
□3 特例に当たるか(公知・基礎科学など。使うなら根拠を残す)

【誰に・どこで渡すか】
□4 受け取る人は非居住者か
□5 居住者でも、特定類型に当たらないか
□6 渡す場所は外国か(海外出張先での説明など)
□7 使いみちや相手に、気になる点はないか

【どうやって渡すか】
□8 渡し方を把握しているか(メール・クラウド・持ち出し・口頭)
□9 許可が要るなら、渡す前に取れているか
□10 確認した記録を残したか

1つでも「分からない」が残ったら、渡す前に止めて、輸出管理の担当に相談します。ここからは、各項目の意味と根拠を順に見ていきます。

何を渡すか(□1〜□3)

図面を送らなければ、技術は渡っていない?
図面を送らなければ、技術は渡っていない?

□1 渡すものは「技術」か

技術=「貨物の設計・製造・使用に必要な、特定の情報」です。

経済産業省の役務通達は、技術の渡し方を2つの形に分けています。

  • 技術データ:設計図・仕様書・マニュアル・プログラムなど
  • 技術支援:技術指導・技能訓練・作業のコツの提供など

つまり、紙やファイルを渡さなくても、口で説明しただけで「技術の提供」になりうるのです。お金をもらうかどうかも関係ありません。

□2 リスト規制に当たるか

規制されるのは、外為令の別表に載っている技術です。すべての技術ではありません。該非判定がまだなら、ここで判定します。リスト規制は原則として毎年改正されるので、判定したときの法令の版も確かめます。

□3 特例に当たるか

リストに載っている技術でも、許可が要らない取引が決められています(貿易外省令第9条第2項)。主なものは次のとおりです。

  • 公知の技術:新聞・書籍・インターネットなどで、すでに誰でも手に入る技術
  • 基礎科学分野の研究:特定の製品の設計・製造を目的としない、原理を究める研究
  • 特許などの出願に必要な最小限の技術
  • 輸出した貨物の据付・操作・保守・修理に必要な最小限の技術を、買主などに渡す場合(性能を上げる改良などは除く)
  • 市販のプログラムなど

特例ごとに、細かい条件がついています。使うときは、どの号に当たるかと、その根拠を記録に残します。公知の線引きは、あわせて読むの記事でくわしく扱っています。

誰に・どこで渡すか(□4〜□7)

国内で、日本にいる人に渡すなら関係ない?
国内で、日本にいる人に渡すなら関係ない?

ここがいちばん見落としやすいところです。規制に当たる技術なら、日本国内で渡しても対象になることがあります。

□4 受け取る人は非居住者か

非居住者=「外国に住んでいる人や、外国の事務所に勤めている人」です。国籍では決まりません。

外国の方でも、日本の事務所に勤めている人や、入国して6か月以上たった人は居住者です。逆に、短い期間だけ来日している取引先の技術者は、多くの場合、非居住者です。工場の見学や打ち合わせで説明する前に、ここを確かめます。

□5 居住者でも、特定類型に当たらないか

特定類型=「日本に住んでいても、外国の組織から強い影響を受けている人」です。2022年5月から、この人たちへの技術の提供も対象になりました。役務通達は3つの型を示しています。

  • ① 外国の会社や政府などと契約し、その指揮命令を受けている人(例外あり)
  • ② 外国の政府などから、年間の所得の25%以上にあたる利益を得ている人
  • ③ 日本での行動について、外国の政府などから指示や依頼を受けている人

自社の従業員なら、採用時の誓約書(自己申告)と、あとから当てはまったときの報告の決まりで確かめる方法が、経済産業省のガイダンスで示されています。誓約書の参考様式も公表されています。

□6 渡す場所は外国か

海外出張先での技術指導のように、外国で渡す場合は、相手が居住者でも非居住者でも対象になります。

□7 使いみちや相手に、気になる点はないか

リストに載っていない技術でも、使いみちや相手によっては許可が要る場合があります(補完的輸出規制)。取引審査と同じ目で、相手と使いみちを確かめます。

どうやって渡すか(□8〜□10)

許可は渡す前、記録は渡したあとも
許可は渡す前、記録は渡したあとも

□8 渡し方を把握しているか

ガイダンスは、技術の渡し方の例として、USBメモリの持ち出し・メール・電話・Web会議・クラウドサービス・技術指導などを挙げています。

役務通達では、提供=「相手が使える状態に置くこと」です。共有フォルダやクラウドに置いた場合は、誰がそれを見られるかを確かめます。

□9 許可が要るなら、渡す前に取れているか

許可は、技術を提供する前に取っておく必要があります。メールなら送る前、共有フォルダなら相手が見られるようにする前です。

□10 確認した記録を残したか

ガイダンスは、該非判定や取引審査の書類(特定類型を確かめた書類を含む)を保存しておくよう示しています。期間の目安は、少なくとも5年(1〜4項に関するものは少なくとも7年)です。

何を・誰に・いつ・どう判断したか。この4つが残っていれば、あとで聞かれても説明できます。

なお、リストに載っていない技術でも、海外での製造を可能にする技術移転など、事前の報告が求められる場合があります(官民対話スキーム)。対象は告示で決められた一部の技術です。

まとめ

  • 技術を渡す前に確かめるのは、何を・誰に(どこで)・どうやっての3つ
  • 技術は形を問わない。口頭の説明や技術指導も「技術の提供」になりうる
  • 相手が非居住者か特定類型なら、国内で渡しても対象になりうる。外国で渡すときは相手を問わない
  • 特例を使うときは、どの特例に当たるかの根拠を残す
  • 許可は渡す前に。確認の記録は渡したあとも残す

あなたの職場で、先月いちばん多かった「技術の渡し方」は何だったでしょうか? メールでしょうか。それとも、来客への説明でしょうか?

みなとくん船長、ぼく、口で説明するのは『渡す』に入らないと思っていました
あんぼう船長そう思う人は多いんじゃ。じゃがな、このリストを1枚、机に置いておけばよい。渡す前に上から見る。それだけで、立ち止まる場所ができるんじゃよ
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※ 技術の定義・渡し方の形・特定類型・「提供」の意味・許可を要する時点は、経済産業省の役務通達(4貿局第492号、輸出注意事項2025第27号による最終改正・令和8年2月14日施行)によります。特例は、貿易関係貿易外取引等に関する省令第9条第2項(令和7年経済産業省令第71号による改正版)によります。居住者・非居住者の区分、渡し方の例、特定類型の確認方法、文書の保存期間、官民対話スキームは、経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」(第3.0版・令和8年3月)によります。この確認リストの項目と並べ方は、上記の一次情報をもとに安貿ナビが実務向けに整理したもので、法令上の様式ではありません。個別の技術や取引が規制に当たるかは、法令・通達の原文をご確認のうえ、必要に応じて経済産業省にご相談ください。

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