この記事で学べること
- EAR99は「規制対象外」という意味ではない、ということ
- de minimis(含有率)とFDPR(直接製品規則)は、まったく別の入口だということ
- 自社が買った製造装置が、製品をEARの対象に引き込むしくみ
- 明日から自社で確かめられる3つの点検項目
最初に、これは米国の制度です
これから書くのは米国のEAR(輸出管理規則)の話です。
日本の外為法とは、別の建て付けです。日本の該非判定でリスト規制に当たらないからといって、米国のEARの対象外になるわけではありません。2つの物差しを、同じ棚に並べないでください。
日本の会社に関係するのは、海外の工場で作った製品を、第三国のお客さまへ売るときです。


2026年6月、米国のBIS(商務省 産業安全保障局)が、ドイツの大手部品メーカーとのあいだで和解に至ったと発表しました。行政罰金は約3,618万ドルです。
事実関係は、BISの発表文にこう書かれています。
- 2020年9月16日から2024年9月26日までの取引
- 海外から輸出した、MEMSセンサー製品と車載ソフトウェア、合計およそ7,236万ドル分
- 相手は、エンティティリストに載っているファーウェイと、その関連会社
- これらの品目は、直接製品規則(Foreign Direct Product Rule)によってEARの対象だった
- BISの許可を取らずに出していた
MEMSセンサーというのは、スマートフォンやウェアラブル端末、自動車などに広く使われる、ごくふつうの民生部品です。
兵器でも、軍用品でもありません。 ここが大事なところです。
この記事は、特定の会社を責めるために書いていません。同じ落とし穴は、日本の製造業にもそのまま空いているからです。仕組みのほうを見てください。
いちばんの論点:EAR99でも対象になる

まず、言葉の整理からいきます。
EAR99=「EARの対象だが、CCL(規制品目リスト)に番号が付いていない品目」です。
よくある誤解は、これです。
✕ EAR99 = EARの対象外 = 何をしても自由
◯ EAR99 = EARの対象内 = ただし番号が付いていないだけ
「対象外」と「番号なし」は、まったく違います。
番号が付いていない品目でも、相手によっては許可が要ります。 その代表がエンティティリストです。
EARの第744.11条(a)には、こう書かれています。
「エンティティリストに掲載された相手が取引の当事者であるときは、リストに記載された範囲で、EARの対象となる品目の輸出・再輸出・国内移転に許可が必要である」
そして、ファーウェイの掲載欄に書かれている範囲は「EARの対象となるすべての品目」です。
すべて、です。 ECCNが付いていないEAR99の民生部品も、EARの対象になった瞬間に、この網に入ります。
つまり、勝負の分かれ目は「そもそもEARの対象か」のほうにあります。
「番号は何番か」より先に、「EARの対象か」を見る。 この順番を逆にすると、必ず取りこぼします。
では、ドイツ製のセンサーが、なぜEARの対象になったのか
ここが今回の本題です。
ドイツの工場で、ドイツの会社が作ったセンサーです。米国から買ったものではありません。それでもEARの対象になりました。
答えは、FDPR(直接製品規則)という仕組みにあります。
FDPRは「含有率」ではなく「生い立ち」を見る

外国で作った品物が米国のEARの対象になる入口は、大きく2つあります。この2つを混同すると、今回のような事故が起きます。
入口①:de minimis(デミニミス)ルール=中身を量る
外国製品の中に、米国原産の規制対象品がどれだけ入っているかを金額の割合で見ます。国によって10%または25%の基準があり、これを超えるとEARの対象になります。
「入っているか、いくら分か」を数える考え方です。
入口②:FDPR(直接製品規則)=生い立ちをたどる
こちらは、中身をいっさい数えません。
見るのは、その製品が何から生まれたかです。
- その製品は、米国の技術やソフトウェアから直接生まれたか
- あるいは、その製品を作った製造装置そのものが、米国の技術やソフトウェアから直接生まれたものか
後者に、今回の落とし穴があります。
「製造装置をたどる」という条文
EARの第734.9条(e)(1)(i)(B)には、こう書かれています。少し長いので、区切って読みます。
「外国で製造された品目は、次の場合にこの規定の対象となる。すなわち、その品目が、米国外にある工場一式または工場の『主要な構成部分』によって製造され、かつ、その工場一式または主要な構成部分が——米国で作られたか外国で作られたかを問わず——それ自体、指定されたECCNの米国原産の技術またはソフトウェアの『直接製品』である場合。」
かみ砕くと、こうです。
米国の技術やソフト
↓(それを使って作られた)
製造装置
↓(その装置で作られた)
製品 ← ここもEARの対象になる
装置を米国から買ったかどうかは、関係ありません。 条文は「米国で作られたか外国で作られたかを問わず」と書いています。
つまり、米国以外の会社から買った製造装置でも、その装置が米国の技術から生まれたものなら、そこで作った製品はEARの対象になりうるということです。
自社と米国のあいだに、直接の取引が1本もなくても、です。
⚠️ ただし、どんな米国技術でもよいわけではありません。 条文は、対象となる技術・ソフトウェアのECCNを具体的に列挙しています(3D001・3E001・4D001・4E001・5D001・5E001など、半導体・コンピューター・通信の分野に集中しています)。「米国の技術が少しでも関わっていれば全部かかる」という読み方は誤りです。 自社の装置がこの列挙に当たるかどうかを、個別に確かめてください。
そして、相手を見る
ただし、これだけでは足りません。FDPRの脚注1の規定は、もう一段あります。
第734.9条(e)(1)(ii)は、相手方の条件を定めています。
- その品目が、脚注1の指定を受けた相手(ファーウェイなど)が製造・購入・発注する部品や装置に組み込まれる、または、その製造・開発に使われると知っている場合
- あるいは、脚注1の指定を受けた相手が取引の当事者(購入者・中間荷受人・最終荷受人・最終需要者など)である場合
「装置の生い立ち」と「相手が誰か」の、二段構えです。
今回の件は、この2つが両方そろっていました。
なぜ4年間も気づかなかったのか
報道されている経緯のうち、日本の会社にそのまま当てはまる論点を1つだけ取り上げます。
社内向けの判断メモが、de minimisとFDPRを取り違えていたと伝えられています。
これは、他人ごとではありません。
- de minimisは、サプライヤーから米国原産比率を集めれば計算できる
- FDPRは、サプライヤーに聞いても出てこない
性質がまったく違うのです。
「米国原産比率は10%未満です」という回答を集めて安心する——これはde minimisの答えであって、FDPRの答えではありません。
米国原産比率の表しか持っていない会社は、決して少なくありません。
その表が間違っているわけではありません。ただ、答えているのは半分の問いだけです。もう半分の答えは、装置の台帳のほうに眠っています。
明日からやること

① 「EAR99だから審査終了」になっていないか
社内の判定フローを見てください。
□ EAR99と分かった時点で、審査を終える運用になっていないか
□ EAR99でも「相手が誰か」を必ず見る手順になっているか
□ エンティティリストの確認が、EAR99の品目にも及んでいるか
EAR99は、審査の終点ではありません。出発点です。
② 製造装置の「生い立ち」を、いま持っているか
de minimis用の米国原産比率の表とは別に、こちらが要ります。
□ 主要な製造装置の一覧があるか(何を、いつ、どこから買ったか)
□ その装置が「米国の技術・ソフトから生まれたものか」を確認したことがあるか
□ 装置メーカーに確認を求めた記録が残っているか
装置メーカーに聞かなければ分かりません。 そして、聞いていない会社が非常に多い項目です。
まずは「聞いていない」という事実を、はっきりさせるところからで構いません。
③ 判断メモに「どちらのルールの話か」を書く
社内の判断メモや教育資料に、de minimisの話なのか、FDPRの話なのかが書いてありますか。
□ メモの冒頭に「これはde minimisの判断です」と明記してあるか
□ FDPRの検討をしていないなら「未検討」と正直に書いてあるか
□ 「米国原産比率10%未満だから対象外」で結論を止めていないか
書かないと、あとから読んだ人が取り違えます。 今回の件が、まさにそれでした。
もうひとつ、覚えておきたいこと
BISの発表文には、自主的な申告(Voluntary Self-Disclosure)を行い、調査に協力したことが書かれています。
そのうえで、罰金の一部が猶予されました。米国司法省との関係でも、利益の吐き出し(disgorgement)に応じています。
BISの担当次官補は、この処分について「法令順守を大切にせよという警告であると同時に、自主申告の利点を示す例でもある」と述べています。
気づいたときに、自分から言いに行けるかどうか。 制度の設計として、そこに差を付けているということです。
日本の外為法にも、違反に気づいたときに自ら報告する手続きがあります。建て付けは違いますが、「隠さない」ことが結果を分けるという点は共通しています。
まとめ
- 2026年6月、BISが約3,618万ドルの行政罰金で和解した事案が公表された
- 対象は、ドイツで作られたMEMSセンサーと車載ソフト(約7,236万ドル分・2020年9月〜2024年9月)
- 品目は民生用で、EAR99だった。それでもEARの対象になった
- 理由はFDPR(直接製品規則)。製造装置そのものが米国の技術から生まれたものだったため
- 条文は第734.9条(e)(1)(i)(B)。装置を米国から買ったかどうかは問わない(「米国で作られたか外国で作られたかを問わず」)
- 相手方の条件(第734.9条(e)(1)(ii))と合わせて、二段構えで判定する
- de minimis(中身を量る)とFDPR(生い立ちをたどる)は、別の入口。 取り違えが原因だったと伝えられている
- エンティティリストの掲載欄が「EARの対象となるすべての品目」なら、EAR99でも許可が要る(第744.11条(a))
- 自主申告と調査協力が、処分の軽減につながっている
さて、自社の資料に、製造装置の生い立ちを確かめた記録はあるでしょうか。
そして、社内の判断メモは、「どちらのルールの話か」を名乗っているでしょうか。


※ 本記事は、米国商務省 産業安全保障局(BIS)の報道発表「Robert Bosch GmbH (Bosch) To Pay $36 Million Penalty to BIS for Violations Pertaining to Shipments to Huawei」(2026年6月18日公表・最終命令は2026年6月16日)と、米国連邦規則集(15 CFR)第734.9条・第744.11条の条文によります。米国の規制であり、日本の外為法とは別の制度です。 罰金額・取引額・違反期間・品目の種類は発表文の数値です。対象品目がEAR99であったこと、および社内向け判断メモの経緯については、BISの発表文ではなく、CISTECの掲載情報および法律事務所の解説によります。実際の判断にあたっては規則の原文と最新のエンティティリストをご確認ください。制度は今後も改正されることがあります。
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安全保障貿易の制度は、たびたび改正されます。安貿ナビでは、経済産業省・CISTEC・米国EARの新着を確認し、実務への影響をメールでお届けしています。
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