概要
海外の現地法人には、条文を訳して配るより、「止める3つの行動」を渡すほうが確実に伝わります。
米国の輸出管理規則(EAR)の「関連会社ルール」は、社内の専門の担当者でも読むのに骨が折れる規定です。
対応するシステムを入れたのに、現地から「で、結局なにをすればいいの?」と聞き返されたことはありませんか?
それは、現地の人の理解が足りないからではありません。現場に要るのは、条文の理解ではなく、動き方だからです。


- 米国の「関連会社ルール(50%ルール)」が、ひとことで何を求めているか
- 2026年9月時点で、このルールが一時停止中であることと、再開の予定
- 海外の現地法人に渡す「止める3つの行動」と、1枚マニュアルの見本
関連会社ルールとは

はじめに、言葉をそろえます。
エンティティリスト=「米国が、輸出や再輸出を強く制限する相手を載せた名簿」です。
関連会社ルール=「名簿に載った会社が50%以上を持っている会社も、名簿に載っているのと同じに扱うルール」です。英語では Affiliates Rule と呼ばれ、日本では「50%ルール」とも呼ばれます。
米国商務省の産業安全保障局(BIS)が、2025年9月に定めました。ポイントは3つです。
- 持ち分は足し算します。 名簿の会社Aが35%、名簿の会社Bが15%を持っていれば、合わせて50%です
- 間接の持ち分も数えます。 名簿の会社が50%を持つ子会社が、さらに50%を持つ孫会社も対象です
- 国は問いません。 名簿の会社の支店や営業所が別の国にあっても、同じ扱いになります
たとえるなら、名簿に載った人の「家族」まで、同じ扱いにするルールです。ただし、家族かどうかは名字(社名)ではなく、持ち分で決まります。
名簿の照合だけでは見つかりません

ここが、このルールでいちばん大事なところです。
関連会社ルールの対象になる会社は、名簿に名前が載りません。
BISのFAQも、米国政府がまとめた照合用の名簿(Consolidated Screening List)には、こうした関連会社が含まれないと書いています。名簿との照合とは別に、関連会社ルールの確認をするよう求めています。
つまり、取引先の名前を名簿と見比べて「載っていない」で終わると、見落としが起きます。相手の持ち主(株主)までたどる確認が必要になります。
多くの会社が、このために対応システムを入れています。けれども、システムを入れただけでは、現地の担当者は動けません。「警告が出たら、どうするか」が決まっていないからです。
いまは一時停止中です

2026年9月27日時点で、関連会社ルールは一時停止中です。流れを整理します。
2025年9月29日 施行(連邦官報への掲載は9月30日)
↓
2025年11月10日 1年間の停止が始まる(掲載は11月12日)
↓
2026年11月9日 停止の終わり
↓
2026年11月10日 延長がなければ、元の規定に戻る
停止を決めた規則そのものに、2026年11月10日から元に戻すことが書き込まれています。ただし「将来、延長されなければ」という条件つきです。
この記事を書いた時点で、延長や見直しを告げる新しい規則は、連邦官報では見当たりませんでした。今後の発表で変わることがあります。
また、停止中でも、エンティティリストに載っている会社そのものへの規制は続いています。 止まっているのは、「名簿に載っていない関連会社まで広げる部分」です。
停止中のいまは、現地への伝え方を整える時間と考えるのがよいでしょう。
なぜ現地法人に関係するのか
EARは、米国から出たあとも品物について回るルールです。
アジアなど海外にある現地法人が、米国原産の品物や、米国の部品・技術を一定以上含む品物を扱うとき、その販売先にもEARがかかることがあります。
再輸出=「米国から出た品物を、別の国へさらに送ること」です。同じ国の中で別の会社に引き渡すことにも、ルールがかかる場合があります。
現地法人の営業担当者は、毎日のように見積りを出し、出荷を手配しています。相手を最初に見るのは、本社ではなく現地です。だからこそ、現地に「止める場面」を知っておいてもらう必要があります。
現地に渡す「止める3つの行動」

現地の担当者に、持ち分の計算まで覚えてもらう必要はありません。渡すのは、次の3つだけです。
① 警告が出たら、止める
スクリーニングのシステムが警告を出したら、出荷・引き渡し・技術資料の送付を、いったん保留にします。
スクリーニング=「取引の相手を、名簿や持ち主の情報と照らし合わせる確認」です。
「たぶん同名の別会社だろう」と、現地で判断して進めないことが大切です。
② 持ち主が分からなければ、止める
システムは、手元のデータにない会社を見つけられません。相手の持ち主(株主)が分からないときも、保留にします。
BISのFAQは、持ち主に名簿の会社がいると知っているなら、持ち分の割合を確かめる義務があるとしています。割合が分からないときは、許可を取ってから進むよう求めています(停止中は、この規定も止まっています)。
また、持ち分が50%に届かなくても、名簿の会社が大株主だったり、役員が重なっていたりする相手は、注意が要るサインだとしています。
③ 止めたら、本社に連絡する
保留にしたら、本社の輸出管理の窓口に連絡します。 許可が要るかどうかの判断は、本社でします。
連絡のときに送ってもらうものを、あらかじめ決めておくと速く進みます。
- 相手の会社名と所在地
- 取引の中身(品物・数量・納期)
- 警告が出た画面
- 分かっている範囲の株主の情報
止めるのは現場、決めるのは本社です。この役割分担を、はっきり書いて渡してください。
伝える形は「1枚」にする

条文を訳して配るだけでは、現場は動けません。いつ・何をするかが書かれていないからです。
おすすめは、次のような1枚のマニュアルです。現地の言葉に訳して渡します。
【米国EAR 取引を止める3つの場面】
① スクリーニングで警告が出た
→ 出荷・引き渡し・資料の送付を保留する
② 相手の持ち主(株主)が分からない
→ 同じく保留する
③ 保留にしたら、本社に連絡する
連絡先:本社 輸出管理窓口(メール・電話)
送るもの:相手の名前/取引の中身/
警告の画面/分かっている株主の情報
× 自分で「大丈夫」と判断して進めない
○ 止めたことは、正しい行動です
これは見本です。窓口の名前・連絡先・社内の言葉づかいは、自社に合わせて置き換えてください。
伝えるときのコツを3つ挙げます。
- 専門用語を使わない。「エンティティリスト」より「米国の要注意名簿」のほうが、現場には届きます
- 具体例を1つ添える。「こういう警告が出たら」と画面の例を見せると、迷いが減ります
- 止めた人を責めない。 止めれば、売上や納期に響くこともあります。本社が「止めてくれてありがとう」と言える仕組みにしておくと、現場は安心して止められます
文字を読む時間が取りにくい現場なら、同じ中身を1分ほどの短い動画にする方法もあります。
あなたの会社の現地法人は、警告が出たとき、誰に連絡すればよいかを知っているでしょうか?
まとめ
- 関連会社ルール=名簿に載った会社が50%以上を持つ会社も、名簿と同じに扱うルール。持ち分は足し算し、間接の分も数える
- 対象の会社は名簿に名前が載らない。照合だけでは見つからず、持ち主までたどる確認が要る
- 2026年9月27日時点では一時停止中。延長がなければ2026年11月10日に元に戻る
- 現地法人には、条文ではなく「止める3つの行動」を渡す(警告が出たら止める/持ち主が分からなければ止める/止めたら本社に連絡)
- 伝える形は現地の言葉で1枚。止めるのは現場、決めるのは本社
さて、あなたの会社の現地法人にいま届いているのは、「条文」でしょうか、それとも「動き方」でしょうか?


※ 本記事は、米国商務省 産業安全保障局(BIS)の暫定最終規則「Expansion of End-User Controls To Cover Affiliates of Certain Listed Entities」(90 FR 47201・2025年9月30日公布)、最終規則「One Year Suspension of Expansion of End-User Controls for Affiliates of Certain Listed Entities」(90 FR 50857・2025年11月12日公布)、eCFR 15 CFR Part 744(2026年7月23日版)、BIS「Entity List FAQs」(2025年9月29日更新版)によります。ルールの状態は2026年9月27日時点のものです。米国の規制であり、日本の外為法とは別の制度です。「止める3つの行動」は、社内への伝え方の一例として示したもので、規則の条文そのものではありません。個別の取引が対象になるかは、規則の原文と最新の連邦官報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
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