概要
担当者ひとりの判断で輸出できてしまう体制そのものが、違反の原因になります。 担当者に悪意がなくても、です。
「急ぎの案件だから、今回だけは自分の判断で出してしまおう」。そんな場面に心当たりはありませんか?
経済産業省が公表している違反事例に、まさにこの流れで起きたものがあります。
担当者は、手続きが必要なことを知っていた。けれども納期が迫っていたため、上長の確認を得ずに、自分の判断で「非該当」として輸出した。そういう事例です。
経済産業省が問題にしたのは、担当者の判断ではありません。そういう輸出ができてしまう体制のほうです。


- 「担当者の独断で輸出できる体制」がなぜ問題になるのか
- 法律が求めている体制の最低ライン
- 急ぎの案件でも確認を飛ばさないための工夫
経済産業省が公表した事例
経済産業省の「外為法違反事案の分析結果」には、会社名を伏せた違反事例が載っています。
2023年度版と2024年度版の両方に、次の事例があります(要旨)。
貨物の輸出と技術の提供について、担当者は外為法上の手続きが必要だと認識していた。しかし納期が迫っていたこともあり、上長の確認を得ることなく、担当者の判断で非該当として輸出した。
分類は「輸出管理体制の未整備」です。
経済産業省の解説は、はっきりしています。社内の決裁を経ずに、担当者の独断で輸出できる体制に問題がある。
知っていても、起きてしまう

この事例で見落とせないのは、担当者が手続きの必要性を知っていたという点です。
知識が足りなかったわけではありません。納期という圧力の前で、確認の手順が飛ばされたのです。
これは、誰にでも起こりうることです。取引先から催促が来る。営業からも急かされる。上長は出張で不在。そんなときに「たぶん非該当だから」と自分で決めてしまう。
だから、個人の心がけだけでは防げません。 急いでいても、ひとりでは出荷まで進めない。そういう仕組みが必要になります。
2024年度の分析結果では、違反原因の36%が「管理体制」に関するものでした。その中でいちばん多いのが「管理ルール・体制未整備」の19%です。
法律が求める体制の最低ライン

体制づくりは「できればやるとよいこと」ではありません。外為法は、輸出をする会社に輸出者等遵守基準を守ることを求めています。
輸出者等遵守基準=「輸出をする会社が守るべき、社内体制の決まりごと」です。
経済産業省のガイダンスによると、この基準は2段階になっています。
すべての輸出者等に求められること
- 輸出するものが規制に該当するかを確認する責任者を決める
- 輸出の業務をする人に、最新の法令を知らせ、指導する
規制に該当する貨物・技術を扱う輸出者等には、さらに次のようなことが求められます(抜粋)
- 組織の代表者を、輸出管理の責任者にする
- 社内の業務の分担と責任の関係を決める
- 該非を確認する手続きを決める
- 出荷のときに、確認した貨物と一致しているかを確かめる
ガイダンスは、該非判定の手順の最後に「社内の決裁を得て、組織として決定する」段階を置いています。判定は、担当者ひとりで完結させるものではない、ということです。
「ひとりで出せない」仕組みの作り方

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。ガイダンスが示す責任者の役割を手がかりに、流れを描くとこうなります。
担当者:判定の案をつくる
↓
該非判定の責任者:内容を確かめて決裁する
↓
取引審査の責任者:相手と使いみちを見て、取引してよいか決める
↓
出荷管理:決裁済みのものと、出す物が一致しているか確かめる
↓
出荷
ガイダンスは、出荷管理の責任者について「不備があるときは、ただちに出荷を止める権限を持つ人」がよいとしています。また、取引審査の責任者は、営業部門から独立して判断できる立場が望ましいとしています。
つまり、「決める人」と「急がせる人」を分けておくことが、仕組みの要になります。
「うちは小さな会社だから、責任者を何人も置けない」という方もいると思います。ガイダンスは、中小企業では代表者が責任者を兼ねることも考えられるとしています。大切なのは、組織として責任をもって確認する形になっていることです。
急ぎの案件にこそ備えを
確認が飛ばされるのは、たいてい急いでいるときです。あらかじめ、次のような備えをしておくと、急ぎの案件でも手順を守りやすくなります。
- 責任者が不在のときに、代わりに決裁できる人を決めておく
- 決裁の記録がないと、出荷の手配に進めない流れにしておく
- 判定済みの製品を一覧にしておき、急ぎの案件でもすぐに確認できるようにする
- 急ぎの案件ほど、あとから判断の過程を追えるよう記録を残す
「急いでいるから確認を省く」ではなく、「急いでいても確認できる」状態をつくる。それが体制を整えるということです。
あなたの会社では、責任者が不在の日に急ぎの出荷が来たら、誰が判断することになっているでしょうか?
まとめ
- 担当者の独断で輸出できる体制そのものが、違反の原因として問題にされた
- 担当者は手続きを知っていた。知識があっても、納期の圧力で手順は飛ばされる
- 2024年度は違反原因の36%が管理体制。最多は「管理ルール・体制未整備」の19%
- 輸出者等遵守基準は法律上の義務。すべての輸出者等に「責任者を決める」ことが求められる
- 判定は社内の決裁を得て、組織として決める
- 「決める人」と「急がせる人」を分け、急ぎの案件にこそ代わりの決裁者と記録で備える
さて、あなたの会社の輸出は、担当者ひとりで最後まで進められる流れになっていないでしょうか?


※ 事例は、経済産業省「外為法違反事案の分析結果について(安全保障貿易関係)」の2023年度版(2024年12月公表)・2024年度版(2025年12月公表)に掲載された違反事例の要旨です。割合は2024年度版によります。会社名は元の公表から伏せられており、この記事も特定の会社を示すものではありません。輸出者等遵守基準と責任者の役割は、経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」(第3.0版・令和8年3月)によります。「急ぎの案件にこそ備えを」の4項目は、この記事としての提案です。
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