概要
規制に該当する技術を置いたクラウドに、海外の子会社が自由にアクセスできる。その状態は「技術の提供」にあたると考えられます。 ファイルを送っていなくても、です。
「自分の会社のクラウドに保存しているだけだから、輸出とは関係ない」と思っていませんか?
経済産業省が公表している違反事例に、この受け止め方から起きたものがあります。
クラウドに規制対象の技術を保存していた。海外の子会社が、そこに自由にアクセスできる状態だった。けれども、それが技術の提供にあたるとは認識していなかった。そういう事例です。


- ファイルを送らなくても「提供」になる理由
- グループの子会社でも、海外にあれば対象になること
- 自社のクラウドで、いま何を点検すればよいか
経済産業省が公表した事例
経済産業省の「外為法違反事案の分析結果」には、会社名を伏せた違反事例が載っています。
2023年度版と2024年度版の両方に、次の事例があります(要旨)。
クラウドサービス上に、規制に該当する技術を保存していた。海外の子会社が自由にアクセスできる状態だったが、それが役務の提供にあたるという認識がなかった。
分類は「外為法認識不足」です。
役務の提供=「技術を相手に渡すこと」です。輸出管理では、貨物の輸出と並ぶもう一つの対象です。
経済産業省は、この事例にこう解説を添えています。自社の子会社であっても、非居住者が規制に該当する技術に自由にアクセスできる状態は、技術の提供にあたると考えられる。 そのため、アクセスを制限するか、許可を申請する必要がある。
送らなくても「提供」になる理由

なぜ、送っていないのに提供になるのでしょうか。
答えは、「提供」という言葉の決め方にあります。役務通達という経済産業省の通達は、こう定めています。
提供=「他者が利用できる状態に置くこと」です。
渡したかどうかではなく、相手が使える状態にしたかどうかで見る、ということです。
たとえるなら、鍵のかかっていない書庫です。書類を一枚も手渡していなくても、誰でも入れる書庫に置いておけば、誰でも読めます。「読める状態にした」ことが、渡したのと同じ意味を持つのです。
クラウドの共有フォルダーは、この書庫と同じです。海外の子会社のアカウントでも開ける設定なら、その子会社は技術を使える状態にあります。
「保存しただけ」なら提供ではない
ここで、混同しやすい点を整理しておきます。
役務通達には、クラウドの扱いを示した別紙があります。それによると、自分が使うためだけにクラウドに保存することは、原則として提供にあたりません。サーバーが海外にあっても、です。
では、今回の事例は何が違ったのでしょうか。
違いは、海外の子会社がアクセスできる状態になっていたことです。別紙も、第三者に技術を渡すためにクラウドを使う場合は、その第三者への提供になると書いています。
自社だけが使うために保存する
→ 原則として提供にあたらない
海外の子会社(非居住者)も開ける状態にする
→ 提供にあたると考えられる
問題はサーバーの場所ではなく、アクセスできる相手です。
子会社でも、海外にあれば非居住者

もう一つの思い込みが「グループの会社だから、社内のやりとりだ」というものです。
輸出管理では、相手が居住者か非居住者かで扱いが変わります。
非居住者=「日本に住んでいない人や、外国にある会社など」です。
外国の法律で作られ、外国で事業をしている子会社は、資本関係があっても非居住者として扱われます。「身内」かどうかではなく、「どこにあるか」で決まります。
あなたの会社のクラウドには、海外拠点のメンバーを招いたフォルダーがありませんか?
いま点検したいこと

不安になる必要はありません。クラウドに置いたものすべてが問題になるわけではないからです。点検の順番は次のとおりです。
① 規制に該当する技術はどれかを確かめる(該非判定)
↓
② その技術がクラウドのどこにあるかを把握する
↓
③ そのフォルダーを開けるのは誰かを確かめる
(海外の拠点・子会社・委託先のアカウントはないか)
↓
④ 非居住者が開けるなら、次のどちらかを選ぶ
・アクセスを制限する
・許可を申請する
↓
⑤ 点検した日と結果を記録に残す
とくに見落としやすいのは、次のような場面です。
- プロジェクトのために海外拠点のメンバーを招待し、終わったあとも残っている
- 共有リンクを「リンクを知っている人は誰でも」の設定で発行している
- 規制に該当する技術と、そうでない資料が同じフォルダーに混ざっている
アクセス権は、放っておくと少しずつ増えていきます。一度決めたら終わりではなく、定期的に見直すことが大切です。
まとめ
- 非居住者が自由にアクセスできる状態は、技術の提供にあたると考えられる。送っていなくても同じ
- 提供=他者が利用できる状態に置くこと。「渡したか」ではなく「使える状態か」で見る
- 自分が使うためだけの保存は、原則として提供にあたらない。分かれ目はアクセスできる相手
- 海外の子会社は非居住者。グループ会社でも「社内のやりとり」にはならない
- 対応はアクセスを制限するか、許可を申請するか
- 点検は、該非判定 → 保管場所 → アクセスできる人 → 対応 → 記録、の順で
さて、あなたの会社で規制に該当する技術を置いているフォルダーは、いま誰が開けるでしょうか?


※ 事例は、経済産業省「外為法違反事案の分析結果について(安全保障貿易関係)」の2023年度版(2024年12月公表)・2024年度版(2025年12月公表)に掲載された違反事例の要旨です。会社名は元の公表から伏せられており、この記事も特定の会社を示すものではありません。「提供」の定義とクラウドの解釈は、役務通達(2026年2月14日施行版)の本文および別紙1-2によります。個別の取引が対象になるかは、法令・通達の原文をご確認のうえ、必要に応じて経済産業省にご相談ください。
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